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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)62号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点、第二点について。

本件調停は、被上告人が昭和一八年一二月一日に、期間を二年と定めて、上告人に賃貸した農地につき、右賃貸借の期間満了前に、上告人から小作継続の調停の申立をなし、その結果昭和二〇年一二月二二日賃貸借の条件を一部変更し、期間を一年と定め、この一年間を限つて賃貸借することを定めたものであり、この一年間を限つた賃貸借は被上告人の側における譲歩の結果であつて、特に調停条項にも、上告人は右田地は、被上告人において自作するのを相当と認め、前項の期限が到来したときは、事情の如何に拘らず返還する旨規定されていることは、原判決の確定した事実関係である。右のごとき事実関係の下においては、本件賃貸借は、農地調整法第九条第二項但書にいわゆる「特別ノ事由ニ因リテ一時賃貸借ヲ為シタルコト明ナル場合」に該当するものであると認むべきであるとした原判決は正当である。この点を攻撃する論旨は理由がない。しかして、右但書に該当する賃貸借には、いわゆる法定更新に関する同条同項本文の規定の適用のないことは同項但書に規定するところであるから、かゝる賃貸借は、予め更新拒絶の通知をすることを要せず、期間の満了により当然に終了するものであり、従つて更新拒絶に関する同条第一項及び三項の規定は、また、かゝる賃貸借には適用のないものといわなければならない。同条第三項は当初は、当事者賃貸借の更新を拒まんとするときは「命令ノ定ムルトコロニ依リ予メ市町村農地委員会ニ通知スベシ」とあつたのを昭和二〇年一二月二九日法律第六四号により「市町村農地委員会ノ承認ヲ受クベシ」と改正せられ、さらに同二一年一〇月二一日法律第四二号により、右「市町村農地委員会ノ承認」とあるのは「地方長官ノ許可」と読み替えるものとする旨規定せられ、かつ同項の次に「第三項ノ承認を受ケズシテ為シタル行為ハ其ノ効力ヲ生ゼズ」との規定が追加せられたのであつて、右両次の改正は、いづれも、本件賃貸借の存続中になされたものであるから、右改正法規は、本来ならば、本件賃貸借にも適用されるべき関係にあることは、まさに所論のとおりであるけれども、同条第三項の規定は、本件賃貸借の性質上、その適用を見ないものであることは、前段説明のとおりであるから、本件賃貸借につき地方長官の許可を得ていないとしてもそれは、右賃貸借の効力を左右するものでなく、従つてまた、前記調停調書の債務名義としての効力に何等の影響を及ぼすものでないことは明らかである。原判決は結局、右と同趣旨の理由によつて、上告人の請求を棄却したものであつて論旨はその理由がない。

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従つて、主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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